ゲームを学習場面に導入する際に自問自答すべき3つのこと
ここ1年、「ゲームと学習」に関するリサーチをしたり、講演をしたり、書籍を書いたりする機会が多くありました。その中で、特にゲームを学習場面に導入する時の注意点が浮き彫りになってきたので、自問自答すべき問いとして3つ紹介しようと思います。
(1)ゴールを定量的に設定できるか
先日、NPO法人Educe Technologiesの安斎勇樹さんからのお誘いで、「ゲームvsワークショップ!?:”楽しい学び”を生み出すテクノロジーを探る」というセミナーを実施してきました。(実践報告については安斎さんのブログをご覧ください)
このセミナーの中で面白かったのは、ゲームは定量的に評価可能な行動目標を持つ学習と相性が良く、ワークショップは行動目標を記述しにくい学習(例えば、問い直しや創発など)と相性が良いという話が出たことです。最近はワークショップもゲームも学習方法としては有名になってきましたが、この目標のタイプの違いを意識した上で、ゲームを使うべきか判断することは大事といえるでしょう。
(2)教育目標のタイプとゲームのタイプは合っているか
現在、ゲームに関する『教育工学選書』を共著で担当しているのですが(ちなみにゲーム学習のデザインについて書いています)、その中で、教育目標のタイプとゲームのタイプのマッチングの重要性について触れています。教育目標については、ブルームの目標分類という有名な分類があるのですが、Kapp(2013)という研究者がそれぞれの目標に適したゲーム活動例を下の表のようにまとめています。
実はゲームデザインをする際、このマッチングがうまく合っていないケースがよくみられます。例えば、「応用」を目標にしているのに「パズルゲーム」や「収集ゲーム」を作ってしまうなどです。これは自分の知っているゲームに引きずられて目標のことを意識からすっ飛ばしてしまうのが原因であることが多いです。教育目標のタイプとゲームのタイプが合っているかは常に自問自答することが大事でしょう。
ブルームの目標分類(改訂版)とゲーム活動の対応表
(3)そのゲームを通して何を概念化させたいのか
フェローを務めているLudix Lab(NPO法人Educe Technologiesの研究ユニット)から、『入門企業内ゲーム研修』という電子書籍が2016年4月9日に発刊されました。私は「第三章:ゲームの強み」を書いたのですが、その中でゲームでの学習を「経験学習」というモデルで捉え直した上でそれぞれのポイントを説明しています。
Kolbの経験学習の学習プロセス
経験学習は、「具体的な経験」→「省察」→「概念化」→「実践」→「具体的な経験」→…. という一連のサイクルの中で学習が生じるという考え方なのですが、実はゲームでの学習はこのモデルとの相性がとても良いのです。ゲームを使った学習は「具体的な経験」に焦点があたりがちなのですが、実は「学習」から考えると「省察」と「概念化」がとても重要になります。そのため、単にゲームを導入するだけでなく、それを通してどのような概念化をさせたいのかを明確にした上で、ゲーム後も含めた教育パッケージを考えることが大事といえるでしょう。
「省察」や「概念化」や「実践」のそれぞれで、どのような考え方や切り口で考えれば良いのかという細かいことについてはこのブログでは書き切れませんので、よろしければ『入門企業内ゲーム研修』をご覧下さいませ。ちなみにこの書籍の他の章では、ゲームを研修場面に導入する際に抑えるべきポイントがまとめられています。例えば、「効果測定の方法」や「振り返りを促すファシリテーション」、「研修企画を通すための説得ツール」などです。合わせて興味のある方はご覧いただけますと幸いです(Kindleをお持ちでなくても、スマートフォンなどにKindleのアプリをインストールいただければお読みいただけます)。
■ゲーム×学習に関する研究動向
一時のゲーミフィケーションのブーム時に比べると、ゲームに対する熱はだいぶおさまってきたように思えますが、一方で2010年前後頃から「ゲーム×学習」の研究、特にデザイン方法に関する研究がとても活発になってきています。こちらについては発刊予定のゲームに関する『教育工学選書』の中でできるだけ取り上げていますが、今後も研究動向をチェックし、講演やセミナー、書籍を通してできるだけ多くの人に届けられればと思います。
参考文献
Kapp, M. K., Blair, L. & Mesch, R.(2013)The Gamification of Learning and Instruction
Fieldbook: Ideas into Practice. San Francisco: Wiley.
Kolb, A. D. (1983)Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development. FT
Press.
Ludix Lab, 藤本徹, 池尻良平, 高橋興史, 為田裕行, 福山佑樹(2016)入門企業内ゲーム研修.
(http://www.amazon.co.jp/dp/B01DUPLGXQ/)
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