高校生向け学習イベントをハードファンにするコツ
先日、とある高校で大学教授が機械工学を実際に体験してみようという高校生向けの学習イベントが行われ、僕もたまたま参加させてもらいました。
イベントの流れとしては以下のようなシンプルな構成ですが、大学側が学問的な内容で高校生にイベントをする際に(おそらく)意識されていた仕掛けが2つあり、それが面白かったので簡単に紹介を。
*イベントの流れはこんな感じ
1 機械工学ってどういうものかの説明(パワポで)
2 社会でどれだけ役に立っているのかの説明(パワポで)
3 機械の簡単な仕組み「リンク機構」を高校数学で解説
(リンクと呼ばれる棒が2本くっついた三角形に円運動をさせる仕組み)
4 厚紙と分度器、コンパス、ハトメなどを用いて高校生がリンク機構を設計する
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(1)実際の機械の仕組みを学校の数学に結びつけまくる
とても印象的だったのが、三角形がジョイントされた棒2本でぐるぐる円運動する構造を説明する際に、で全て説明し、逐一「これは三角平方を使えば出せます!中学校で習ったやつですね〜!これは余弦定理で角度が出せますね!高校2年生で習うやつです!」と学校のカリキュラムに引きつけていることです。
実際に4で行う機械の仕組みの設計自体は大学2年生レベルのもので、ちょっと敷居が高い感じもしたのですが、これだけ「習ったことを使ったらできるんだよ!簡単簡単」「これなんかとっくに習ったもんね!」と念を押すことで、課題はハードそうだけど自分たちにでもできるんだと思わせ、いわゆるハード・ファンな活動にチャレンジさせる流れができていました。
工学にしろ、歴史学にしろ、大学で行っている学問的な内容を扱うとどうしても高校の教科とのギャップを感じさせがちですが、普段学校で習っていることとつなげてあげることでチャレンジ精神をキープさせられ、その学問の持つファンな部分に到達させられるんじゃないかと思います。
(2)教科書の世界では生まれない、緩くて面白いトラブルを起こす
もう1つ印象的だったのが、機械を作ってみてはじめてわかるトラブルがぼこぼこ生まれていたことです。
今回の場合は、可動する三角形の大きさを5種類用意し、どういう起動で円運動させたいかを生徒一人一人に決めさせていました。基本は自分で決めた3点を通る軌道に通るようにリンク機構を設計させていたのですが、軌道を楕円にする子もいれば、8の字にチャレンジする子もいました。
自分の好きな軌道で設計しているので、当然ここからはどんどんトラブルが起こります。しかし、これがまた座学では体験できない良質なトラブルで、しかもギリギリ乗り越えられるトラブルなのです。ここでは3つ紹介しましょう。
1. ある生徒は、好きに軌道を描いてそれに合ったリンクの動きを求めていたら、案外リンクが長くなってしまい、紙からはみ出してしまったんです。その後、もう1枚紙をもらって、今度はどうやったら紙に収まるようにできるかを考えていました。同じ問題を抱えて考えているうちに指をパチン!と鳴らす子もいました。
2. ある生徒は、軌道を通る動きはできたものの、機構の動きが思ったよりもぐるんぐるんしなくて「なんか動きが小さくなってつまんないんだけど、何でだろう?」と隣の生徒に話しかけていました。2人はその後、大きくぐるんぐるん動く要因を考え、「2本の棒(リンク)が同じ長さになると小さくなるんじゃないか」など色々な仮説を出し合い、他の生徒の作品を見ながら仮説を確認していました。
3. また大多数の生徒は、三角形とリンク(棒)になる紙をハトメでジョイントすると、三角形がリンクに引っかかってうまく1周しないというトラブルが起きました。これが非常に面白くて、2次元で図形を書くだけだとうまく1周回るはずなのに、実際に作ってみると3次元なので「層」をちゃんと意識しないと回らないんですね。生徒達は指で無理矢理ぐにぐにまわしてみたり、紙同士のジョイントの順番を変えたりしながら、原因を探り、徐々に層の必要性が大事なんだとわかっていっていました。
こういうトラブルに共通していることが「リアルな世界でのトラブル」だという点です。「高校の教科で習ったことを駆使すると、機械って作れるんだ!」と思わせつつも、「ノートと教科書の世界だけじゃうまくいかないこともあるんだなあ」とも思わせているんですね。そして、そのトラブルは模擬試験のように解答へのアプローチが全く思いつかないレベルではなく、実際に手を動かして試行錯誤を重ねることで帰納的に解答へのアプローチが見えてくるレベルになっているのが特徴的な点です。
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まとめると、今回のイベントでは高校生に対して、
●高校までに習った内容と強烈に結びつけて「やれる感」を与えてあげること
●普段の教科書内の世界では体験できないトラブルを生み出して試行錯誤を促すこと
の2つが仕掛けが盛り込まれていたと思います。
「高校生が簡単にこなしてしまって盛り上がらない」
もしくは
「内容が難しくなりすぎて高校生がついてきてくれない」
と悩んでいる方は参考にしてみてはいかがでしょうか?